事例

【鹿児島市】
糖尿病性腎症 重症化予防の取り組み

自治体主導のもと病診連携をテーマとするパネルディスカッションを開催した、鹿児島市様にインタビューしました!

2024.10.11
自治体主導のパネルディスカッション!
―行政と医療機関の連携の重要性を再認識―

鹿児島市では、糖尿病性腎症重症化予防の取り組みとして、かかりつけ医、糖尿病専門医、基幹病院の連携強化を目指した自治体主導のパネルディスカッションを令和6年1月に開催しました。そこで、鹿児島市国民健康保険課保健事業係のご担当者に市の現状から、パネルディスカッション開催の経緯、成果、そして今後の展望などのお話を伺いました。




新規透析患者の半数近くが糖尿病性腎症
鹿児島市の糖尿病性腎症の現状についてお聞かせください

鹿児島市の国民健康保険加入者(110,371人)のうち、糖尿病患者数は13,490人で、これは被保険者の12.2%を占めています。そのうち、糖尿病性腎症の患者数は2,230人で、糖尿病患者の16.5%に上ります。特に懸念されるのは、新規の人工透析導入患者の状況で、令和5年度の新規導入患者63名のうち、29名(46%)が糖尿病性腎症を合併しています。この数字は全国平均と比較しても高く、鹿児島県の特徴的な健康課題となっています。

背景には、鹿児島県全体の食生活や生活習慣も関係していると考えられます。たとえば、糖尿病のリスク因子である「HbA1c」と「尿蛋白」の値が、全国的に見ても上位に位置しているという点。これは、地域の食文化として、甘い醤油の使用や砂糖の多用、いも類の摂取が多い一方で、葉物野菜の摂取が少ないといった特徴も要因の一つして考えられるでしょう。こうした現状を踏まえ 、鹿児島市では糖尿病性腎症重症化予防対策推進協議会を設置し、さまざまな取り組みを進めてきました。その一環として、今回のパネルディスカッションの開催に至ったのです。

鹿児島市 国民健康保険課 保健事業係 井上奈津美 様

連携の道筋を可視化、体系図とプログラムノートに込めた5年の努力
協議会を設置されてから、どのような取り組みを行ってこられたのでしょうか

令和元年に協議会を設置してからこれまでの5年間で、最も時間をかけて取り組んできたのがフローチャートの作成です。これは、健診結果に基づいて、患者さんがかかりつけ医を経由して糖尿病専門医あるいは糖尿病専門医と腎臓専門医が両方いる基幹病院への受診勧奨基準を示すもので、その基準を決めるのに苦労しました。このフローチャートは2つあり、1つ目の「概要図」は治療中心で、健診から治療までの流れを示し、もう1つの「体系図」は保健指導を中心として、かかりつけ医とどのように連携するかを示しています。これらの図をかかりつけ医の先生方にも分かりやすく伝えるため、市のホームページを通して動画配信やDVDの配布など、さまざまな周知活動も行ってきました。

画像引用:鹿児島市ホームページ 医療機関向け(鹿児島市糖尿病性腎症重症化予防のための連携)


鹿児島市 国民健康保険課 保健事業係 係長 郡山明美 様

体系図に基づいた実践的なツールとして、「鹿児島市糖尿病性腎症重症化予防プログラムノート」を作成しました。このノートは、患者さん、かかりつけ医、そして保健指導を行う私たち行政スタッフの三者が情報を共有するためのものです。HbA1cの経年変化グラフや体重の記録、服薬状況、血圧の推移などが記入でき、さらに保健指導の記録も含まれています。現在、対象となる方々への配布を進めており、かかりつけ医の先生方とも連携しながら活用の場を広げているところです。



画像引用:鹿児島市ホームページ 医療機関向け(鹿児島市糖尿病性腎症重症化予防のための連携)

自治体主導で行う医療関係者を巻き込んだパネルディスカッションへ 
パネルディスカッション開催までの経緯をお聞かせください。

今回は、糖尿病性腎症重症化予防プログラムの中で、市役所が主導となり、医薬品卸会社のアステムが受託企業としてサポートする形式で、病診連携パネルディスカッションの実現に至りました。この取り組みの特徴は、協議会が主催となって医療関係者の連携を促進する点にあります。かかりつけ医、糖尿病専門医、基幹病院の医師が一堂に会し、それぞれの立場から意見を交換する機会を設けることで、より効果的な病診連携の実現を目指しました。

事前にパネリストの先生方に市役所にお越し頂き、打ち合わせを行いました。私たちが想定した以上に先生方の熱意が凄く、当初は1時間の予定だったのが2時間になってしまい、それでも足りないぐらいで急遽2回目の打ち合わせも行うことになりました。12月のお忙しい時期でしたが、この打ち合わせが行えたおかげで、パネルディスカッション当日をスムーズに迎えられました。

また、アステムのサポートも大きな助けとなり、医療機関への周知や当日の運営面で多大なご協力をいただきました。自治体だけでは難しい細やかな対応も、民間企業の協力を得ることで事業の中身に集中することができました。


参考:病診連携パネルディスカッションチラシ

多職種の参加で実現した効果的な情報共有の場
パネルディスカッションの内容についてお聞かせください。

内容としては、まず市の担当者から鹿児島市の健康課題や糖尿病性腎症重症化予防プログラムの概要について説明しました。その後のパネルディスカッションでは基幹病院や専門医と連携したことで改善していった好事例などの共有や糖尿病性腎症と腎硬化症の合併症例などの症例検討なども行っていただきました。先ほどお話したようにフローチャートを作り、医療機関に向けて市のホームページ等で発信していましたが、先生方に知ってもらうまでなかなか難しく、苦労しました。この経緯があったので、今回のパネルディスカッションでは病診連携の周知に焦点をあてた内容にしました。

パネルディスカッションには、予想を上回る120名の方々にご参加いただきました。そのうち66名が医師で、残りは看護師、保健師、栄養士などさまざまな職種の方々でした。

実際に多職種の方々が集まる機会というのは珍しく、今後連携していくという点でも大きな意義があったように思います。参加者の反応はいかがでしたか。

参加者からの反応は非常に好評でした。特に印象的だったのは、「もっと多くの開業医の先生方にこの内容を聞いてほしかった」という声です。また、自治体の保健指導に対する期待の声も多く寄せられ、医師からは「保健師さんたちに生活指導をやってもらいたい」といった意見もあり、行政と医療機関の連携の重要性が再認識されました。

さらに、ネットワークの充実や情報共有の簡素化についての要望も多くいただきましたので、これらの声は今後の取り組みに活かしていく予定です。

鹿児島市 国民健康保険課 課長 田地行孝志 様

10年後、20年後を見据えた地道な努力の先に見える、健康長寿のまちづくり
今後の展望と他の自治体へのメッセージをお願いします。

今回のパネルディスカッションを一回だけで終わらせず、今年度も実施してステップアップできるものにしていきたいです。昨年度は病診連携が中心だったのですが、今年度は、保健指導のことも盛り込んだ内容にできればと思っています。また、医療機関への個別の説明にも力を入れたいです。実際に訪問して、市がやりたいことを伝えるだけでなく、できることを伝えて、先生の近くにいる保健師・栄養士は私ですというアピールは大事だと感じました。勇気を出して先生のところに行ってみると温かく迎えていただき、いつでも来ていいよと言ってくださいました。先生方のほうでは県や市単位のデータを見る機会があまりないようで、データを持っていくと、「自分もこういうふうに感じていたけど、やっぱりデータでもそうなんだね」など、大きな関心を寄せてくださいます。こうした顔の見える関係づくりが、効果的な連携につながると考えています。

また、血糖コントロール不良の患者さんの割合が全国的に見ても高いので、保健指導の介入にも注力していきたいですね。糖尿病は薬物療法のほかに、生活習慣の改善が欠かせません。そこで、保健師や栄養士が家庭訪問を行い、個々の生活状況に合わせた指導を行うことで、医療機関と連携しながら患者さんをサポートしていきたいと思っています。

協議会やパネルディスカッションの開催となると、その会を実施すること自体に意識が向きがちですが、その会を実施したことによって何が生まれたか、それをもとに事業が動いていくことが重要だと思っています。今、係全体がその認識を持っているということもうまくいっている理由かなと思います。

これらの糖尿病性腎症重症化予防の取り組みは、すぐに結果が出るものではありません。しかし、地道な努力を続けることで、必ず成果は表れると信じています。医療機関との連携は、最初は難しく感じるかもしれませんが、一歩踏み出すことが大切だと思います。お互いの立場を理解し、共通の目標に向かって協力することで、必ず道は開けるはずです。皆さまの地域でも、市民の健康を守るための取り組みが広がることを願っています。

鹿児島市国民健康保険課保健事業係の皆様
(株)アステム 鹿児島営業部 地域アクセス・流通政策担当 課長 平嶋隼人氏(上段左から1人目)
※所属名は、インタビュー当時(2024年8月23日)の名称です。

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