事例

【呉市】
骨粗しょう症重症化予防の取り組み

「呉市骨粗しょう症重症化予防プロジェクト」の取り組みで、予防医療の最前線を走る呉市様にインタビューしました!

2023.10.11
予防医療を通し、呉市民の健康増進!
地域の医療関係者や企業と連携しながら「健康寿命日本一のまち『呉』」の実現へ
健康づくりの基本目標である「健康寿命日本一のまち『呉』」の実現のため、広島県呉市役所は「呉市骨粗しょう症重症化予防プロジェクト」などの先進的なプロジェクトに取り組まれています。
そこで、福祉保健課健康政策グループの要田弥生様にプロジェクトを立ち上げた背景や工夫した点、今後の展望などのお話を伺いました。



医療費の適正化、市民のQOL向上、健康寿命の延伸が「骨折予防」により見込める
―「呉市骨粗しょう症重症化予防」を立ち上げた経緯・背景を教えてください。
人口20万人あまりの広島県呉市の高齢化率は36%、国民健康保険(国保)加入者の高齢化率も55%と高い状況でした。住民の高齢化により発生する健康問題を解決すべく取り組んだプロジェクトが、「呉市骨粗しょう症重症化予防プロジェクト」です。
呉市では、国保の加入者のレセプトデータと特定健診データを分析し、保健事業を展開してきました。それが、呉市が先進的な自治体だと評価されている所以かと思います。次に私たちが取り組んだのは、後期高齢者医療制度被保険者のレセプト、健診結果、介護給付情報等のデータベースを作り、介護度別に医療費を分析することでした。その中で、プロジェクトを始める大きな要因となる、新たな気づきが生まれます。それが、要介護・要支援状態にある方の医療費のうち最も高い疾病が「骨折」という結果です(表)。



高齢者が骨折すると、本人の医療費負担が大きくなるだけでなく介護を必要な状態に繋がる恐れがあります。でも、骨折の予防、適切な治療が継続できれば、医療費の適正化をはじめ、市民のQOL向上、健康寿命の延伸が期待できます。

■自治体だけで終わらない「周りを巻き込む」プロジェクトを
―「呉市骨粗しょう症重症化予防プロジェクト」を実施するにあたり、どんな点を大切にされていたのでしょうか。
「呉市骨粗しょう症重症化予防プロジェクト」の立ち上げにおいて、自治体だけの力では市民のQOL向上、健康寿命の延伸を実現することはできません。
過去に、私自身も自治体職員同士のアイデアでは限界があると感じた経験があります。でも、その時に勇気を振り絞り、同僚や上司・先輩の力を借りて、地域の医療関係者へ相談を持ちかけました。「このような計画を立てているのですが、一緒に考えてもらえないでしょうか」と。骨粗しょう症の予防に対する熱い思いをお持ちの地域の医療関係者と出会うことができ、この取り組みに賛同する方々が次第に増え、率直に相談できる環境が整ってきました。
今は、適切な助言をいただくとともに、お互いの意識を擦り合わせることができるようになっています。地域の医療関係者の方々と共通意識を持つことが「呉市骨粗しょう症重症化予防プロジェクト」が軌道に乗った要因だと思います。
内部と外部の関係が構築できたことで、呉市の保健事業における協力体制は、日ごとに強化されていると感じます。

―現在、どんな分野に力を注がれているのでしょうか。
現在、私は健康政策グループのグループリーダーとしての役割を担っています。近頃、ようやく次の世代に繋げる段階に入り、待望の新人が配属されました。彼女には私が学んできた保健事業のノウハウを継承しつつ、外部との連携に積極的に携わってもらっています。今後は、事業を行う中で若い人の新しい風や考えをどんどん取り入れて欲しいと考えています。




プロジェクトの活動としては、「呉市骨粗しょう症重症化予防」の対象者を階層化した保健事業の展開です。これは、対象を①「健康層(未治療者・骨粗鬆症予備軍)、②ミドルリスク層(治療中者)、③ハイリスク層(治療中断者)の3つ分け、啓発・健診・個別保健指導などを行うものです(図)。これによって、より対象者の状態に適したアプローチができると期待しています。


当然ながら、元気な方々への啓発事業においては、まずは興味・関心を持ってもらうことが最優先です。地域の医療関係者の方だけでなく、民間企業の方々の力をお借りし、骨粗しょう症の予防の重要性などを訴えています。

■互いが目指す部分をうまく掛け合わせ、与えられたものを最大限に活かし切る
―今後の展望を教えてください。
どの分野においても、「周りを巻き込みながら、実施すること」が大切だと、つくづく実感してきました。呉市、地域の医療関係者、民間企業の方々が互いの専門性や強みをうまく掛け合わせ、与えられたものを最大限に活かし切るという意識を持って取り組むことがなにより重要です。
「ピンピンコロリ」という言葉があるように、死ぬ直前まで元気で過ごし、病気で苦しんだり、介護を受けたりすることがないまま天寿を全うすることが望ましい姿だと思います。いかに元気な期間を長くするのか、健康を維持できるのか。それらを軸とした予防事業を全体で取り組み、呉市の健康づくりにさらに貢献できればうれしいです。
そして、今まで積み上げてきた強固な協力体制を今後も存分に活用しながら、新たな切り口で健康づくりの取り組みを進めていきたいと思います。

―最後に、各自治体様へのメッセージをお願いいたします。
これを伝えると驚かれるかもしれませんが、国保の保健事業の担当となった当初の私は、医療機関へ訪問する際は非常に緊張していました。全身が汗だくになるほど…。しかし、その経験により、今では講演会などで皆様の前でお話をさせていただくまでになりました。つまり、どんなことも諦めずに続けることが大切だということです。
まずは固定概念で物事を判断せずに「人」を巻き込み、たとえ断られてもめげずに再挑戦するという心づもりで挑んでみてはいかがでしょうか。そうすれば、同じ志を持った仲間が自然と見つかり、やがて皆さんの思いや努力が結果に結びつくはずです。

左から
呉市福祉保健部  福祉保健課 健康政策グループ 技師 河本 菜那 様
呉市福祉保健部  福祉保健課 健康政策グループ グループリーダー 要田 弥生 様
株式会社ブリッジ コンサルティング部 部長 野原 秀光
株式会社ブリッジ 経営企画部 部長 太田 晋

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