2024.05.07
子宮頸がん罹患(りかん)率ワースト1位を返上したい!
ワクチン接種の啓発を推進する宮崎市の取り組みとは?
宮崎市では子宮頸がん予防に対する意識を高めてもらうため、宮崎県産婦人科医会の先生(医師)などによる市内の中学校への「出前講座」や子宮頸がんワクチン接種の機会を逃した方を対象にしたキャッチアップ接種のために臨時接種会場を設けるなどの取り組みを実施しています。
今回は、宮崎市役所 子ども未来部 親子保健課の植田大聖様(写真左)と佐藤啓悟様(写真右)に、子宮頸がんワクチン接種の啓発に関する取り組みの概要や今後の展望などのお話を伺いました。
■医師でもある清山知憲市長が子宮頸がんワクチン接種の啓発を牽引
―子宮頸がんワクチン接種の推進に注力されるようになった背景を教えてください。
宮崎県は、子宮頸がんの罹患(りかん)率が全国ワースト1位である中、国の長期にわたる接種勧奨差し控えの影響もあり、子宮頸がんワクチンの接種率も低迷している状況です。
医師である市長は、市長に選出される以前からこのような実情を懸念していました。そのため、令和5年度より啓発事業を立ち上げ、「キャッチアップ接種(※)」が終了となる令和6年度末までに接種率を上げるため、様々な取り組みを実施しているところです。
(※)2022年4月1日~2025年3月31日までの3年間の期間限定で積極的勧奨の差し控えにより接種機会を逃した方を対象に実施する予防接種のこと
キャッチアップ接種の対象者(平成9~19年度生まれの女性)には大学生の方が多いので、県外の大学に通われている方から「県外でも接種できるのか」という問い合わせがありました。また、「キャッチアップ接種はいつまでやっているのか」というご質問もあります。多くの方が、関心を寄せてくださっているようです。
■接種対象者に対する積極的なアプローチ
―子宮頸がんワクチン接種啓発に関する取り組みの概要を教えてください。
令和5年度の取り組みとして、接種対象者への個別通知やテレビCM、ウェブ広告などを行いました。
個別通知は定期・キャッチアップの対象者全員に対して、2023年6月と2024年3月の2回行っています。2回目の個別通知では、対象者だけでなく、保護者で情報が止まらないように、産婦人科の先生から保護者の方に向けたメッセージを記載するなど様々な工夫をしました。
また、宮崎市の特徴的な取り組みとして、市内の全中学校に対して宮崎県の産婦人科医会の協力を得て「出前講座」を実施しました。それに加えて、宮崎大学で臨時のワクチン接種会場を設けて接種しやすい環境もつくりました(令和5年度は宮崎大学の学生と職員が対象)。
参考:宮崎市 子ども未来部 親子保健課様 提供資料
2022年から検討をはじめました。当初は「市内全校実施は難しい」ということで、希望される学校限定で実施することを想定していましたが、市長の「全校でやるべき」という熱い思いから教育委員会と再調整の末、全校で出前講座を実施することとなりました。
過去の子宮頸がんワクチン接種による副反応疑いの問題から、ワクチン接種の啓発を不安視される方もいらっしゃったのですが、臨時で中学校の校長会を開き、副市長や教育長、産婦人科医にも参加していただき、各々の立場から校長先生方にお願いし、理解していただくことができました。
実際に生徒たちに接しておられる教職員の方には宮崎県立看護大学の川越教授の説明動画を視聴していただき、子宮頸がんワクチン接種の必要性を理解していただきました。何かあった際は学校側が対応に追われるので、学校の現場にどう理解してもらうかと、保護者からの相談等については市がきっちりと対応するということを示すことが重要かと思いました。
出前講座の実施については、標準的な接種年齢が中学1年生であるため中学校1年生を中心に、産婦人科医による講演をしていただきました。子宮頸がんの主な原因がHPV(ヒトパピローマウイルス)であり、女性に限らず男性も関係する病気(肛門がんや中咽頭がんなど)の原因になっているということ、身近な女性の健康を守るためにもワクチン接種と検診の必要性を理解してもらうために、男女問わず聞いてもらうように中学校にお願いをしました。また、中学生が自分の意志だけで接種することは考えにくく、保護者の意識も変える必要があるため、可能な限り保護者にも同席してもらいたい旨を伝えました。結果として、参観日に合わせて出前講座を実施する学校が多く、保護者の方にも医師からのメッセージが伝わっているものと思います。
宮崎大学を臨時の接種会場にすることは、2023年7月頃から検討を始め、宮崎市から大学側に働きかけ、了承を得ました。その後、大学側と接種可能な人数や緊急時の対応等について何度もやり取りを行いました。当初はモデル事業ということもあり、1日30接種程度を想定していましたが、大学側のご理解もあり、
1日50接種まで枠を広げていただき、10月に学生の皆さんへ案内を始めました。
年度内に2回接種を実施したいと考えていましたので、2月から春休みに入る大学生のスケジュールを逆算し、2回目接種を1月に、そして接種間隔の都合上、1回目接種を11月に行うという判断に至りました。そのため、案内から申し込み締め切りまで3週間という短い期間しかなく、事前調整があったとはいえ、かなりのスピード感をもって動きました。
※ワクチンの種類にもよりますが、1回目と2回目の接種期間として2か月ほど開けます。
参考:厚生労働省HP HPVワクチンに関するQ&A
私たちも宮崎大学にチラシを配りに行ったのですが、学内の至るところに臨時接種会場設置のポスターが貼ってあったり、学生から「もう予約しました」というお声をいただいたりしました。大学職員の方々にも学生への呼びかけなどかなりご尽力いただき、感謝しています。結果的におよそ150人の方が、宮崎大学でワクチンを接種していただくことができました。
■さらなる啓発活動により、接種率を向上させ、罹患率ワースト1位を脱却したい
―令和6年度以降の取り組みについて教えてください。
中学校での出前講座に関しては、今年度も実施予定です。接種対象者及び保護者に継続して働きかけ、接種率を上げていきたいと考えています。
参考:宮崎市 子ども未来部 親子保健課様 提供資料
小6、中1などはまだ多くの未接種者が存在しています。早期接種がより効果的なので、今後も働きかけを継続していきたいです。
宮崎市では令和5年度の接種件数が、昨年の同時期と比べて2倍以上に増加しました。この結果から多くの自治体からお問い合わせをいただいています。もし必要であれば、宮崎市が使った資料の提供なども行いますので、他の自治体でも積極的に子宮頸がんワクチン啓発に取り組んでいただければと思います。
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